米ストリーミング配信大手の「Netflix(ネットフリックス)」が、ロイヤリティフリーの映像圧縮コーデック「AV1」(AOMedia AV1)をテレビ視聴向けにサポートするらしいです。
日本語の記事だとこの辺り。
対象となるテレビは、2020年モデルのサムスン製スマートテレビや、身近なところだと新しいモデルのAmazon Fire TVやAndroid TV、それとPS4 Proらしい。
AV1と言えば、つい先日発表されたNVIDIAの新しいコンピューティングモジュール「NVIDIA Jetson Orin」シリーズがハードウェアエンコードに対応したことが記憶に新しいです。VP8/VP9を捨ててAV1に対応したというもの。
今後、新しいグラフィックボードはAV1のハードウェアエンコードもデコードもこなしていくのでしょう。
AV1はあまりなじみがないかと思います。
それもそのはずで、映像圧縮コーデックと言えばみなさんがMP4ファイルと呼ぶその中に詰め込まれている「H.264 AVC」が今もなお一強であって、それ以外のものに関心を示す必要はたいてい無いでしょう。家電レコーダーで地上波を圧縮録画したものもH.264 AVCです。
YouTubeがVP9を使っているとか、4K/8K放送はH.265 HEVCだとか、そんなこと知らんがなですよね(´・ω・`)
でも、いわゆる映像圧縮業界も進歩してきていて、H.264 AVCと比較するとVP9/AV1/H.265 HEVCはいずれも「H.264 AVCと同程度の画質をより小さなデータサイズに圧縮」することができます。
※「小さなファイルサイズでも高画質」と表現するにはいささか問題がある気がするので、そういう言い方をする気はないの(´・ω・`)
そして、AV1はH.265 HEVCよりも圧縮率が高いらしい。
ですが、優れた圧縮方式にはそれなりに難解なアルゴリズムが仕組まれており、CPUで圧縮計算(エンコード)するには時間がかかりすぎます。同様に圧縮されたものを映像として表示(デコード)するのにも時間がかかります。
実際、VP9もAV1もCPUで計算する場合は非現実的なくらい時間がかかります。H.264ならフルHD(1920x1080)@30fpsくらいのリアルタイムエンコードがCPUで可能なのですが(そういうエンコードの扱いやすさも一強を支えているのでしょうね)。
ただ、AV1やVP9が何よりも優れているのが「ロイヤリティフリー」という点です。
PCやテレビで映像を見るだけの方にとってはあまり関係ないように見えますが、Windows PCでH.265 HEVCでエンコードされた映像ファイルを再生しようとした際、コーデックのインストールのために追加料金を求められたという経験がある方は、実はその背景にこのロイヤリティが絡んでいます。
H.264 AVCやH.265 HEVCは、圧縮アルゴリズムなどの権利がガチガチに固められており、これを用いて何か製品を作ろうとした場合には権利管理団体のMPEG-LAに権利の使用料を払わなくてはなりません。
先の例だと、もともとWindows PCはH.264の権利使用料をOS1ライセンスごとに支払っている(販売価格に含まれている)ためH.264の動画ファイルは問題なく再生できるのですが、H.265の権利使用料は含まれていないため、別途支払わないと再生できない(再生できるとライセンス違反になる)という仕組みです。
もう1つの例は、「動画ファイルエンコードマシン」を開発・販売しようとした時、権利使用料が販売価格に含まれているRaspberry Piで実装する場合は問題になりませんが、含まれていないNVIDIA Jetsonシリーズで実装する場合には別途使用料を支払わなければならないということになります。
これらは販売側の責任であって、エンドユーザーが使うだけなら問題ないのですが、販売側として出荷済み製品をアップデートで新たにH.264やH.265に対応させようとした場合には権利使用料が別途かかってくるので、自腹はイヤだからエンドユーザーから徴収しようという話です。
たぶんね(´・ω・`)
MPEGまわりの業界団体には、日本の有名メーカーも数多く参加しています。
H.264を扱っている大手メーカーはその流れでH.265やH.266 VVCへと対応していくのでしょうけど、H.265になってH.264より権利関係がかなり複雑化したという事情もあって、権利所有者以外はあまり使いたがらない、イマイチ普及しないコーデックになってしまっています。かなし。
その反面、Googleが開発したVP8/VP9、他の協賛会員といっしょになったAOMediaで進められているAV1(VP10)は非常にオープンで、ロイヤリティフリーなため商用目的であっても誰でも気軽に扱うことができます。CPUエンコードであればライブラリもオープンソースで提供されています。
ネックと言えば、やはり先述のとおりCPUでのエンコード時間が現実的ではなく、ハードウェアエンコーダを搭載したGPUを使わないとイマイチ使う気になれないという点でしょうか。
ましてやAV1なんて、再生側の負荷がだいぶ気になるレベルになると思いますし、それが理由で今回のNetflixのAV1対応も「検証の結果、問題なく再生できるレベルの計算能力をもつデバイスに限定」して配信するものになっているのでしょう。
新しい映像圧縮コーデックとそのエンコード、デコード性能の比較、および権利関係の現状については以下の資料でまとめられているので参考に。
〇 総務省:次世代映像符号化方式AV1のVVCとの性能比較調査について(2021年3月11日:一般社団法人 放送サービス高度化推進協会(A-PAB))
https://www.soumu.go.jp/main_content/000739575.pdf
ちなみに、A-PABはかつての地デジ推進協会Dpaの血を引く団体です。地上波4K放送も推進するフェーズで積極的に絡んでくるのでしょう。
一般ユーザーにとっては、今住んでいる地域でどこの中継局の電波を拾えるか、放送エリアのめやすを提供してくれる程度の団体ですが、スピルオーバーを拾いたい物好きには参考指標としてありがたいマニアックなサービスを提供しているとも言えます。
NVIDIA Jetson OrinのハードウェアエンコーダもAV1に対応しましたし、これからはVP9も次第にオワコン化してAV1に移行していくのかなーなんて。
私の主観では、身近なところで使われるようになるのはまだ相当先だろうし、少なくともVP8/VP9のエンコード機能を削減しようというOrinのあり方は、ちょっと納得できないです。後出しの仕様変更でいいから対応してよ(´・ω・`)
あとは私個人の問題ですが、現状AV1に対応したハードウェアエンコーダを持ち合わせていないので、深掘りできるのは相当先なのかなと(´・ω・`)
それでもこの辺の話はけっこう興味があるので、頭の中にあるものを適当に並べてみました。
それだけです。おわり(´・ω・`)